2009年3月10日火曜日

HBRの読み貯め

読み貯めたハーバード・ビジネス・レビューから気になった記事を記録しておきます。

10月号
Rainer Strack, Jens Baier and Anders Fahlander
"Managing Demographic Risk"
要するに高齢化に伴う退職にどう対応するかという論文ですが、結論から言えば現在の職務を洗い出して構造化し、若い人がローテーションすることで属人的な職務を組織としての能力にするということ。
Job Group(職務)⇒Job Family(職務単位)⇒Job Function(職能)と階層状に構造化した「ジョブ・タクソノミー」を作成し、職務間の近似性から配置転換の困難度を想定し、研修期間を設けるという考え方はなかなか参考になります。

Nitin Nohria 他
"Employee Motivation ; A powerful new model"
モチベーションには「獲得」「絆」「理解」「防御」の4種類があることが判明したという論文。どうやって検証しているのでしょうか?あまり納得できませんが、役に立つならよしとしましょう。
それぞれの整備の仕方ですが、

1.「獲得」 報酬制度の改革
2.「絆」 企業文化の構築
3.「理解」 職務設計
4.「防御」 業績管理と資源配分プロセスの見える化
とのことです。

Tony Schwartz
"Manage Your Energy, Not Your Time"
論文の論旨はさておき、論文の中で「散歩の効果」について言及されているのですが、散歩は運動になるだけでなく、「散歩中はあえて何か考えようとせず、すると左脳が休み、右脳が働き出す」というコメントが気に入りました。
左脳を休ませると、自動的に右脳が働き出すので、ずっと左脳を働かせ続けるのはむしろ非効率かもしれない、という発想はおもしろいです。

11月号
特に面白い論文はありませんでした。

12月号
Tim Brown
"Design Thinking"
イノベーションには「デザイン思考」が必要という話なのですが、そのデザイン思考を持っている人の特徴が述べられていて面白かった。以下のとおり。

・いろいろな人に感情移入し、複数の視点から世界を思い描くことができる人
・複雑な問題の中で、相反する部分をもれなく把握し、全く新しい解決策を生み出沿うとする人。
・楽観的な人。
・思考に終わらせず、実験をするのが好きな人
・他の専門家と、学際的に協力し合うことができる人

1月号
特に面白い論文はありませんでした。

2月号
Daniel Goelman,Richard E.Boyatzis
"Social Intelligence and the Biology of Leadership"
著者はEQの考案者。論文の趣旨は協調性や共感力がリーダーには必要だということで、EQの考え方とどう違うのかよくわかりませんでしたが、「業績の高いリーダーが部下たちの笑いを引き出す回数は、平均的なリーダーの3倍」という言及が興味深い。確かに私の周りでも、優秀なリーダーは周りをよく笑わせ、そして自分自身もよく爆笑しています。
ある先輩から「笑いの表情は強烈なので、顧客や部下の前で不安や自信のなさを隠すことができるから、あの人はわざとよく笑っているんだ」と聞きました。なるほど。

Linda A.Hill
"Where Will We Find Tomorrow's Leaders?"
内容はサーバントリーダーシップの話なのですが、面白い表現がありました。

「リーダーは羊飼いのようなものさ。ヒツジの群れの最後にいて、一番機転の利くヒツジを先頭に立たせ、残りはその後をついていかせる。背後から方向を指示していることは、決して悟られないように」

Rory Stewart
"My Extreme MBA"
この人はイラク進行後の連合国暫定当局(CPA)の派遣代表です。若いけど百戦錬磨の交渉人で、強烈なキャラクターのようです。気になったコメントは以下のとおり。

・できることではなく、自分が「やらなければならない」と考えていることにこだわる人は、権力を長続きさせられず、むしろ衰退してしまう。つまり実現可能なことをすぐさま実行に移すことが重要、という趣旨です。
・NGOが資金提供した研修を受けたアフガニスタンの若者は、問題解決のために方法論やフレームワークを用いたがる。だが、そんなことは求められていないどころか、逆効果ですらありうる。実際彼は、「NGOのトレーニングコースで学んだことは、何もかも忘れてください。そして、全員が協力しあい、家族で商売を営んでいると考えてください」と伝えているそう。これはフレームワークに汚染された若いビジネスマンにも当てはまるコメントだと思います。

Rakesh Khurana, Nitin Nohria
"It's Time to Make Management a True Profession"
Nitin Nohriaさんはリーダーシップ関係の論文によく出てきますね。おもしろかったのは「MBAホルダーの経営者は、そうでない経営者よりも、生涯にわたり継続して学習することに投資する割合が低い」という調査。要するに、MBAでしっかり勉強した人よりも、MBAを持っていない人のほうが、一生勉強し続けるということですね。
MBAでしっかり勉強してしまうと、やりきった感が出てしまう一方、資格としてMBAを持っていない人はそのコンプレックスから勉強をするのか、それともMBAなんて行かなくても勉強することが体の中で習慣化してしまっているからなのか、理由はわかりませんが興味深い結果です。

3月号
横山禎徳
"The Agenda Shaping Leadership"
東京大学でエグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当している方です。マッキンゼーで5年間東京支店長もつとめたスゴイ人。

「課題形成能力を持ち、英語はそれほどうまくなくとも、存在感があり、どこに出しても堂々としていて、話してみると機軸がしっかりしており、公共の精神もあり、話題や内容が豊かで引き込まれてしまい、自然に場をリードしてしまう、ちょっと強引だがとても魅力的な人物」

の育成のため、東大でプログラムをつくったとのこと。行ってみたくなります。この人たぶんありえないくらい優秀な人ですね。こんな明確な人材像を設定して、カリキュラムをつくれるなんてすごいです。他の著作も読んでみたくなりました。

植草徹也
"Leadership Competing with Everyone from Everywhere for Everything" 
製造設備への投資を絞り、低賃金の労働力で代替する「ディスポーザブル・ファクトリー(使い捨て工場)」という発想がおもしろい。イノベーションには実験が必要という前述の論旨にも沿います。
あと、P&Gの幹部候補生は、「ディスティネーション・ジョブ」を自ら設定するというのもおもしろいですね。それぞれのディスティネーション・ジョブに必要な能力、経験なども明示されていてすばらしいと思います。べリングポイントのキャリア形成プログラムにも、「スターモデル」というのがあってキャリアの描き方が見える化されていると、本号の広告記事に掲載されていました。

ハーバード・ビジネス・レビューはボリュームが多くて読むのが大変ですが、最新の経営理論のトレンドを知るのにはちょうどいいです。どう使うんだ?というものも多いですけどね。