2008年6月30日月曜日

セールスマンのノウハウ

昨年度面倒を見てくれたマネジャーから本を薦められました。分厚くて時間がかかりましたが、読み終わりました。

ロバート・B・チャルディーニ
”影響力の武器”

交渉術の古典的な本で、人間の自動反応のパターンの例とその反応を引き起こすスイッチの入れ方を取り上げてた本です。人を自動的な反応に駆り立てるものとして7種類あるそうです。

①コントラスト
アパレルのセールスは、スーツとセーターとネクタイを購入しようとするお客には、まずスーツを買わせるのだそうです。セーターやネクタイはスーツほど値が張らないため、コントラストで、お客に高価なセーター、高価なネクタイを買わせることができるという方法です。

②返報性
他の本では互恵性(レシプロシティ)なんて言われたりもしていますが、例えば高価なプレゼントをもらったら、何かお返しをしなければならないという義務感を発生させると言うことです。
この発展型で「ドア・イン・ザ・フェイス」という手法があるそうですが、これは譲歩をすることで相手の譲歩を引き出す手法です。「1万円貸してほしい」と言われ、拒絶した場合に、「じゃあ千円でいいから貸して」と言われると貸してしまうことを利用したセールス手法です。

③一貫性
何らかの悩みで困っている人が、自分を救ってくれそうな研修を見つけたとする。研修の説明会に参加した後、信憑性に確信を持てないにもかかわらず、研修費用を振り込んでしまう現象です。説明会に参加する、つまりその研修に対して何らかのコミットメントをしてしまった以上、その人にとってはその研修こそが自分を問題から解放してくれるものでならなければならないのです。
この発展型としては「フット・イン・ザ・ドア」という手法があり、訪問のセールスマンがドアに足を挟んで玄関に入ってくることを許したら、そのセールスマンと契約を交わすことも許してしまうのだそうです。
他にも、「ローボール・テクニック」といって、嘘でも良いからとにかく先に小さな承認を取り付け、それから本当の依頼をする方法もあるそう。

④社会的証明
どこにでもいそうな普通の人が商品を推奨するテレビコマーシャルがありますが、これは消費者自身に、自分と近い人が商品を気に入っていると思わせる方法だそうです。つまり、ひとはどう振る舞えばよいのか確信が持てないとき、他社の行動を参考にして、それも類似性の高い他社の行動を参考にして自分の行動を決めるそうです。

⑤好意
セールスマンのことを好きになってしまったら、ものを買ってしまうという単純な主張です。では、人はどういう人を好むかというと、外見が良い人、自分に似ている人、お世辞を言ってくれる人、よく知っている人、だそうです。
モーターショーなどに女性のモデルがたくさんいるのは、車に関心が高いのは多くは男性であり、女性への好意が車への好意に伝染するからという理屈だからだそう。

⑥権威
例えば健康食品を、セールスマンが紹介するのと医者や学者が紹介するのとでは影響がまるで違います。権威を発揮するものとして、著者は肩書き、服装、装飾品の3つを挙げています。身なりの大事さは知り合いの金融機関のセールスマンも強く主張していました。

⑦希少性
よくあるパターンですが、「限定」や「本日限り」の文字に踊らされてしまうということです。人には心理的リアクタンスというものがあり、機会が喪失してしまいそうになると自動的に反発するのだそうです。

判断を保留している状態、不安や緊張を強いられている状態、思い悩んでいる状態など、人は一刻も早く思考から待避したい状態になると、そこから解放されるために自動反応をする習性を持っていて、そのパターンを利用したセールステクニックは強力だということです。

膨大な事例が紹介されているのですが、小粒で具体的すぎて、著者の主張を裏づけるには不十分ではとも思ったのですが、書籍が高価であり、また大量の文章を読ませることで読者に達成感を味わわせる(「③一貫性」の利用)ことと、実証実験を紹介することで多くの学者が自分の主張の裏付けを行っている(「④社会的証明」と「⑥権威」の利用)ことにより、自分の意見の正当性を読者に納得させようとしていて、まさに自分の主張をこの書籍自身で実践しているところがおもしろかったです。

九徳と人望

仕事でおつきあいのある方から本を紹介されたのですが、本屋に無かったので同じ作者の本を買って読んでみました。

山本七平
”人間集団における人望の研究”

文化、宗教を問わず、平等社会であれば、どんな集団においても人望のある人がリーダーとなる、いやリーダーにさせられる、という現象から紹介し、人望こそが人間評価の最大の条件であるという主張を基盤に著者の見解を述べています。

古今東西の古典を分析し、人望ある人の条件について考察しています。その結果、朱子学の入門書である近思録における「九徳」を心得ることが人望の条件と述べています。九徳とは以下の通り。

①寛にして栗(寛大だが、しまりがある)
②柔にして立(柔和だが、ことを処理できる)
③愿にして恭(まじめだが、ていねいでつっけんどんでない)
④乱にして敬(事を治める能力があるが、慎み深い)
⑤擾にして毅(おとなしいが、内が強い)
⑥直にして温(正直で率直だが、温和)
⑦簡にして廉(大まかだが、しっかりしている)
⑧剛にして塞(剛健だが、内も充実)
⑨彊にして義(強勇だが、ただしい)

「克伐怨欲(他人に打ち勝とう、自己主張をしよう、それを妨害する人をおとしめよう、どん欲になろうという感情)」を捨て、「七情(喜・怒・哀・懼(おそれ)・愛・悪・欲)」を抑制して中庸を保ち、「プライド」から脱し、「九徳」を会得することが、人望の用件であるということです。

 人望は「異質の超能力」だが、天性の能力ではない。
 自分の心を抑え、行動を常に九徳に照らし合わせて検証し、
 訓練を経て身につけるものである。

というのが著者の主張のまとめであり、一見当たり前ながら意識していないと忘れがちのことでもあります。

また著者は、機能集団(軍隊や企業など)のリーダーには、人望の前提として能力が必要だと現実的な主張も述べています。徳だけではリーダーたりえず、実務能力が必要だということです。上に行けば行くほど、能力よりも徳の比率が高まっていくということです。

日本におけるリーダーシップの基盤には朱子学があるという発想をベースにおいた著書であったため、朱子学も勉強してみたくなりました。

2008年6月29日日曜日

モダンアートの歴史に触れる

今週火曜は休日出勤した分の振替休日でした。突然休日になったので予定もなく、六本木の森美術館に行ってみました。

森美術館では、いま「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」というイベントをやっています。ターナー賞というのは、英国人、40歳以下のアーティストのみを対象としたモダンアートの賞です。日本ではあまり耳にしませんが、世界的には有名かつ権威ある賞で、本国では毎年の盛大なイベントとして認知されているようです。

ロンドンは、昨年旅行に行ったときもモダンアート好きな街だなと思いました。アートカレッジもたくさんあるし、テートなど世界有数の美術館がすべて無料で、美大生だけでなく普通の人が普通にアートを楽しんでいます。アーティストが育つには絶好の場所です。

だけど、英国からは偉大なアーティストがあまり出ておらず、「英国人はアートを目利きし、蒐集する能力は高いけど、自分で生み出す能力は・・・」なんて言われているようです。最近はそうでもないのかな。

いくつかの作品に刺激は受けたのですが、私はいまいちピンとこなかった。ターナー賞作品は奇抜なものが多く、それは良いのですが、パフォーマンス・アートのような作品は私はあまり好きではないです。特に美術館では動画でしか見られない、その再現性のない作品からは、時間を超えて存在し続ける感覚を私が抱けないからだと思います。こういう賞味期限の短そうな作品が多いように感じました。極めて主観的かつ感覚的な意見ですが。

そんな中でもいいなと思ったのは、ライトが点滅を繰り返す部屋です。部屋には何もなくて、ただライトが定期的に点滅している、その空間がアートであるという作品。これのどこがアート?という感じもしますが、こういうの結構好きだな。私の後からきた海外からの観光客の方が、この部屋に入った瞬間ニヤっとしていましたが、普通の人にそういうリアクションをさせるモダンアートは基本良い作品なんです。音声ガイドを聞くとこの作品の良さがもっとしっくりきます。

音声ガイドといえば、今回のこの展示では音声ガイドが無料で借りられます。ブルームバーグがスポンサーしているそうです。素晴らしい。入館料が1,500円と高いのですが、500円分は音声ガイドだと思えば普通です。

もっとも、美術館で入館料をとっているようでは、日本から次世代のアーティストが出てこないんじゃないかと危惧してしまいます。常備展を増やしてキュレーションの負荷を下げれば、入館料をもっと安くできるし、本当にこういう作品を見るべきは、必ずしもお金を持っていないアーティストのタマゴたちなのではないかと思います。が、森美術館は民間企業があくまで収益目的で運営しているので、そうもいかないのでしょうね。

森美術館
http://www.mori.art.museum/jp/index.html

2008年6月22日日曜日

研修という名のコミュニティビジネス

今日はグロービス最終日。グロービスでは最終日にはレポートがあり、これがかなり重い。なかなか勉強する時間もとれない中で、何とか書き上げて提出しました。出席者の何名かは徹夜でレポートを作成していたようで、講義開始時に早くも疲労困ぱいムード。とはいえ議論がはじまるといつもと同じく盛り上がり、最終日を終えました。

グロービスの会計コースは、最終日がボストン・ビア社というアメリカの実在のビール会社をテーマにしたケースなのですが、打ち上げの際に幹事がボストン・ビア社の代名詞「サム・アダムス・ラガー」を用意していて、なかなか粋なはからい。打ち上げのお店では普段そんな輸入ビールは仕入れていないのですが、幹事の方がわざわざ手配して用意したとのこと。うーん素敵。味もおいしかったです。

グロービスのケース形式での講義は、出席者間のバラつきが大きな影響を及ぼすので、初日受講した感覚では私は非常にネガティブでした。ですが、何度か議論を経験するうちに、予習しなければ出席する意味がないと皆が強く意識したり、議論に慣れたりで、よい議論ができるようになり、大変意義ある時間となりました。

今回のグロービスを経験して非常に感心したのは、「ラーニングコミュニティの形成」に大変なエネルギーを投入しているということです。どうやらこれは講師によっても熱意に差があるようで、私が今回受けた講師は毎回の授業の後の飲み会に必ず出席したり、メーリングリストへの積極的な介入したりと、かなり熱心でした。

こういう講師にはどうやら固定の生徒がつくようで、コミュニティの質が高かった。そうするとお互いが感情的なレベルで仲良くなるので、必然的に議論が活性化します。その結果、いくら予習が大変でも、サボることができなくなります。今回は講師、メンバーに恵まれ、非常に運が良かったと思います。

「ラーニング・コミュニティへの帰属意識」が「勉強することへのプレッシャー」をもたらし、「勉強する喜び、快感」につながる。この快感が「他のテーマももっと勉強しなければならないという危機意識」とあいまって、次の講座を受講させるというサイクルは、はまると抜けられそうにないですね。お金と人間関係に問題がない限りは、抜けられなくてもよいのですが。

さて、打ち上げではもちろん昼から浴びるほど飲むのですが、その中で薬関係の卸業をされている方と話し込みました。薬剤師でもあるその方は、いまは薬局に卸す商品のバイイングをしていて、仕事は商社みたい。シャンプーのTSUBAKIや、化粧品のコフレ・ドール、携帯食のソイジョイなどのバイイングを仕掛けたりしていて、ハイリスクハイリターンなお仕事の話を聞かせていただきました。人間関係構築力や感性が極めて重要な仕事にもかかわらず、グロービスで科学的なアプローチも勉強されているのは尊敬に値します。

総じて、グロービスの受講者はよく勉強していますね。週末や夜中にも勉強しすぎて、夫婦関係、友人関係に影響を及ぼす人もいらっしゃるそう。とはいえ何歳になっても勉強し続ける姿勢は見習いたいです。勉強を習慣化させる必要があります。

メンバーの中でお父さん役みたいな方がいらっしゃるのですが、自社が最近ダラスの会社を買収したそうで、その方はそこの社長になるそうです。なんと明日渡米とのこと。ものづくりの会社なのですが、「部下一人ひとりのプライドを大事にすることが技術者のマネジメントでは重要」という言葉は心に残りました。その方が帰り際に、「うちに24歳の娘がいるのだけど、どうだ?(笑)」とおっしゃってくださりました。もちろん冗談ですが、講義を通じて私のことを評価していただいているようでうれしかったです。

お昼から18時くらいまで飲み続け、メンバーが次の店に行こうとする中、私は次の予定があるので別れました。いったん帰宅して荷物を置き、会社の別本部の同期である友人と食事に行きました。

その友人の本部ではいろいろな変革が起きていて、私は同じ会社なのに全く知らず、刺激的でした。彼は最近読書にハマっていて、おすすめ本をたずねたところ、「ローマ人の物語(塩野七生)」を紹介してくれました。おもしろそうではあるけど、これ読み終わるのに何年かかるんだ?

2008年6月17日火曜日

引き続き京都を味わう

京都から帰ってきました。今日は午前中、少し時間があったので二条城に行ってみました。もう仕事で出張しているのか観光しに来ているのかわかりません。まあ、いいか。

小学校の修学旅行で一度訪れたことがあるのですが、ウグイス張りとか狩野一派の描いたふすまなどディテールの一部だけ覚えていて、城って名前がついている割に地味なイメージがありました。

ですが、大人になるとその味わいがわかるものです。想像以上に広い二の丸(本丸は入れません)内に圧倒されたり、絢爛豪華ではないが意匠を凝らした書院造に風流を感じたり、大政奉還をした広間を目の前に歴史に想いを馳せたり、雄大な庭園を散歩しながら将軍気分を味わったり、と、気に入りました。二条城はかなりいいね。

徳川家の別荘みたいなものかなと思いますが、時代が時代なら敷地に近づくことすら一生かなわなかったわけで、そんなところを気軽に散策できるなんてある意味ラッキーですね。

先輩と昼から仕事をこなして、東京に帰ろうとタクシーで京都駅に向かっていたら、鴨川沿いの飲み屋が座敷を外に張り出して、みんなオープンエアで飲んでる。タクシーの運転手に聞くとそのあたりは先斗町(ぽんとちょう)と言うらしく、夏の風物詩らしい。

というわけで先斗町に潜入。
ここも京都らしさ全開の風流な場所です。酔ってしまい帰りの新幹線は爆睡でしたが、京都を存分に楽しめた出張でした。

2008年6月15日日曜日

京都出張

京都に来ています。最近仕事で京都によく来ていますね。

仕事の合間に、京都大学を訪れてみました。京都大学は単に大学であるだけでなく、地域住民の憩いの場であり、観光客の立ち寄る一大名所でもあるようです。食堂でかるく食事をしていたのですが、修学旅行中と思われる学生服の中学生や、お年寄り夫婦、観光ガイドを手にした女の子たち、と、京大と関係ないひとばかり。が、何となくいい雰囲気ですね。緑も多くて安らぎます。

ただ、京都駅からアクセスが悪いのが難点ですね。京大生は自転車や原付で通う人が多いようです。最寄りの駅から歩くひとももちろんいるけど、ちょっと距離がある。さらに京都の電車は乗り換えが多くて、待ち時間も多いので電車通学は厳しそう。京阪電鉄がJR京都駅と連結していないのは何のメリットもないと思うのだけど・・・。

今夜泊まっている「ホテルモントレ京都」はなかなか気に入りました。まだ新しいホテルで、英国調の雰囲気でサービスもよく、こじんまりとしていてなかなか落ち着く。なにより最上階に温泉があるのがすばらしい。サウナもあって、サウナの中にテレビがあるので長時間いられます。別料金ですがこんなところで温泉に入れるなんてかなりうれしい。バスローブとかパジャマ(しかも上下がセパレートのパジャマ)もあってこの辺も英国風でいい感じ。部屋も清潔で、加湿器つき空気清浄機も完備していて、有線LANもある。烏丸御池からすぐでアクセスもよいし、これからも京都に出張に来る時には利用しようと思いました。

2008年6月11日水曜日

CSOが会社を救う

久々にハーバードビジネスレビューを読んだところ、おもしろい記事が掲載されていました。

ハーバードビジネスレビュー 2008年4月号
”CSO:最高戦略責任者の役割”

CEOの役割が多様化、複雑化する中で、企業が「戦略」の最高責任者を置くようになった、という話。なかなかおもしろい。

CSOとは何か、どういう役割を担うのかを、この記事では「CSO候補の見つけ方」という形でまとめているので、そのページを記録しておくことにします。

新たな戦略を開発し、これを職能部門と事業部門にもわかるように翻訳し、組織変革を推し進められるスキルと経験を備えた人物に欠かせない、9つの個人特性・行動特性を、相対的に重要度の高いものから並べています。

①CEOの信頼が厚い
CEOから全権をゆだねられるほど信頼されていないと戦略担当はできませんね。

②複数の仕事を同時にこなせる
CSOたちには、M&A、市場調査、長期計画策定など難易度の高い役割を、最低でも同時に10以上課せられるそうです。

③何でもできる
CSOはそのキャリアを戦略プランニングで築いているわけではありません。大多数は現場や職能部門で経験を積んでいるとのこと。

④社内の花形である
CSOはキャリアの早い段階で大きな成果を収めているそうです。

⑤考える人ではなく、行動する人
これはおもしろいですね。CSOというのは戦略そのものに磨きをかける人ではなく、それを実行するリーダーだとのこと。実行が重要なのです。

⑥ホライゾン2(中期)を守護する者
経営者が注力するのは短期と長期の問題。戦略を実行するに当たっては「ホライゾン2」と呼ばれる1~4年の中期の問題が重要で、CSOはここに社内の関心を集める必要があります。

⑦影響力が大きいが、独裁者ではない
まあ、それはそうですよね。

⑧白黒はっきりしない状態でも苦にならない
不確実な未来を受け入れる能力がCSOだけでなく、すべてのリーダーに必須とのこと。私はちょっと弱い部分だな。

⑨客観的である
CEOは多少情熱的なくらいが良いでしょうが、戦略担当は冷静で客観的だと思われないといけないですね。

ちなみに、CSOに就任するまでの平均勤続年数は8年とのこと。海外企業のリサーチであり日本では事情が異なるところもあるとは思いますが、組織の戦略実行を推進する責任者となるまでに8年というのは、私にはあまりに短いように思えました。

プロフェッショナルCEOというのは戦略を立案する人だから、それは比較的短期間でも可能かもしれないと思えます。ただ、CSOとなるとわけが違います。組織を知り尽くし、人脈を組織の中に張り巡らし、組織を動かさなければなりません。そういう状態を8年でつくりあげられるものなのか?というのは、感心するというより圧倒されますね。

2008年6月9日月曜日

青春に浸る

最近ビジネス書ばかり読んでいる私を心配した方から、小説を貸していただきました。第2回の本屋大賞を受賞した、青春小説です。

恩田陸 ”夜のピクニック”

とある田舎の高校で毎年「歩行祭」というイベントが開催されます。それは、全校生徒が夜を徹して80キロを歩き通すという毎年の伝統行事です。主人公の西脇融(とおる)は親友の戸田忍と語らいながら歩き、もうひとりの主人公の甲田貴子もまた、親友の遊佐美和子と歩きます。ただ、融と貴子の間には、秘密があって・・・、と、友情や恋愛感情だけでなくいろいろな想いが交錯する作品です。

登場人物の感受性の豊かさ、言葉を交わさなくても通じ合っているところ、純粋な信頼関係で結びついているすがすがしさに、フィクションだとわかっていながらも心が洗われます。以下、いくつかいいなと思ったせりふ。

「だけどさ、雑音だって、おまえを作ってるんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う」

「大体、俺らみたいなガキの優しさって、プラスの優しさじゃん。何かしてあげるとか、文字通り何かあげるとかさ。でも、君らの場合は、何もしないでくれる優しさなんだよな。それって、大人だと思うんだ」

「母親や、友人や、女の子たちから無償の愛を与えられているし、それを当たり前だと思っている。なのに、恐らく、彼自身だけは自分が幸せだとは思っていないのだ。まだ自分は何も手に入れていないと思っている」

と一応メモっておくけど、小説読んで文脈の中で捉えないと、せりふだけ書いても意味わからないな。

ひとを思いやる感受性の豊かさと、純度の高い信頼関係の大切さに触れた一冊でした。たまにはこういう作品を読んで、心に潤いを与えないと、と思ってしまいました。

2008年6月8日日曜日

先生おめでとうございます

私が大学の学部時代にお世話になった指導教官が、先日大学で新専攻を立ち上げ、その初代専攻長になりました。

私が学生時代には助教授でしたが、あっという間に教授になり、専攻長なんてなかなかやるなぁと感心しました。昨日はその専攻立ち上げ記念式典+パーティで、仕事を早めに切り上げて大学に行ってきました。

大学に着くと指導教官の先生や、専攻の他の先生、研究室時代の先輩とか、大学で研究している同窓など、久々に盛り上がりました。研究設備や部屋などを見せてもらったり、大学内をうろうろして、学生気分に浸りました。

ついでに大学院時代の研究室にも遊びに行ってみました。部屋には博士課程の後輩と、修士課程の後輩の2人しか来ていないという不真面目な研究室ですが、2人とも今年が学生生活最後の年、つまり来年から社会人で、今後チャレンジしていきたいことや取り組んでみたい研究テーマについて話に花が咲き、3時間くらい話し込んでしまいました。私も刺激を受けて、もっとアカデミックなことに取り組みたくなってしまいました。論文とか書いてみようかな。

みんなで研究室を後にして帰路につこうとしたところ、博士課程の後輩が、大枚はたいてイタリアのバイク(DUCATI)を買っていて、ちょっと乗らせてもらいました。スーツにネクタイ、革靴のフォーマルスタイルで、ノーヘルのまま大学内をDUCATIで爆走するなんて、ちょっと節操がないですが、大学に戻ると気持ちまで若くなってしまいましたね。それにしてもDUCATIはエンジン音が刺激的。ほしいなぁ。

2008年6月4日水曜日

金井先生の慧眼

キャリアに関するすばらしい本を読みました。

ハーミニア・イバーラ ”ハーバード流 キャリア・チェンジ術”

表題だけ見ると転職あっせん本みたいでいまいちですが、その実は非常にしっかりとしたリサーチに裏づけられた、実践的なキャリア論で、「アイデンティティの確立」を目的としています。

キャリア論のほとんどは、「自分を深く見つめて自分が本当にしたいこと、望むものを発見すること」を重要視していますが、この本はまるで逆。自分の将来像を複数持ち、それを行動に移して次々と試すことが重要、という主張です。簡単に言えば、「内省して自分自身を見つける」のではなく、「行動して自分自身になる」のです。

著者は終盤にまとめとして、「新しいキャリアを見つけるための型破りな9つの戦略」をあげています。

①行動してから考える。行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性は見つけられない。

②本当の自分を見つけようとするのはやめる。「将来の自己像」を数多く考え出し、その中で試して学びたいいくつかに焦点を合わせる。

③「過渡期」を受け入れる。執着したり手放したりして、一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論をだすよりは、矛盾を残しておいたほうがいい。

④「小さな勝利」を積み重ねる。それによって、仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなるが、その誘惑に耐える。曲がりくねった道を受け入れることだ。

⑤まずは試してみる。新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。今の仕事と並行して実行に移せば、結論を出す前に試すことができる。

⑥人間関係を変える。仕事以外にも目を向けた方がいい。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけだす。だが、そうした人をこれまでの人間関係から探そうと考えてはいけない。

⑦きっかけを待っていてはいけない。真実が明らかになる決定的瞬間を待ち受けてはいけない。毎日のできごとのなかに、いま経験している変化の意味を見いだすようにする。人に自分の「物語」を実際に何度も話してみる。時間が経つにつれ、物語は説得力を増していく。

⑧距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。

⑨チャンスの扉をつかむ。変化は急激にはじまるものだ。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから、好機をのがさない。

いつも手元に置いて、悩んだときに開きたくなる本です。この本は神戸大学の金井壽宏先生(日本のキャリア論の第一人者)が監修しているのですが、それにしても金井先生が監修する本はいい本ばっかりだなぁと感心してしまいます。もちろん金井先生ご自身の著書も私はたくさん読んで勉強させていただいています。

2008年6月2日月曜日

表参道を歩く

今日は特に用もなかったのですが、久々に表参道をうろうろしていました。すると箸の専門店がありました。非常に狭い店内に膨大な箸と箸置きがあって、ものはとても良さそう。プラスチックのは安いのですが、木製のは想像以上に高価でした。一膳3万円を超える箸もごろごろあります。たかが箸、されど箸という感じでしょうか。

父の日ギフトということで母の分もあわせて購入し、実家に送りました。その後もピエール・エルメでホットチョコレートやマカロンを味わったり、雑貨屋をのぞいたり、住宅街の雰囲気を楽しみました。住宅街では、市営住宅みたいな古びた建物や、戸建て住宅もたくさんあって、意外でした。ハイクラスマンションももちろんあるのですが、こんなに戸建てがあるとは思ってなかったので。

緑も多いし、オーガニックの食材スーパーとかもあって、住むにもよい場所だと感じました。。以前、表参道ヒルズに行って、表参道は遊ぶところ無いな、と思っていたのですが、裏道を歩くととてもおもしろい街だったんですね。かなり気に入りました。