2008年6月30日月曜日

九徳と人望

仕事でおつきあいのある方から本を紹介されたのですが、本屋に無かったので同じ作者の本を買って読んでみました。

山本七平
”人間集団における人望の研究”

文化、宗教を問わず、平等社会であれば、どんな集団においても人望のある人がリーダーとなる、いやリーダーにさせられる、という現象から紹介し、人望こそが人間評価の最大の条件であるという主張を基盤に著者の見解を述べています。

古今東西の古典を分析し、人望ある人の条件について考察しています。その結果、朱子学の入門書である近思録における「九徳」を心得ることが人望の条件と述べています。九徳とは以下の通り。

①寛にして栗(寛大だが、しまりがある)
②柔にして立(柔和だが、ことを処理できる)
③愿にして恭(まじめだが、ていねいでつっけんどんでない)
④乱にして敬(事を治める能力があるが、慎み深い)
⑤擾にして毅(おとなしいが、内が強い)
⑥直にして温(正直で率直だが、温和)
⑦簡にして廉(大まかだが、しっかりしている)
⑧剛にして塞(剛健だが、内も充実)
⑨彊にして義(強勇だが、ただしい)

「克伐怨欲(他人に打ち勝とう、自己主張をしよう、それを妨害する人をおとしめよう、どん欲になろうという感情)」を捨て、「七情(喜・怒・哀・懼(おそれ)・愛・悪・欲)」を抑制して中庸を保ち、「プライド」から脱し、「九徳」を会得することが、人望の用件であるということです。

 人望は「異質の超能力」だが、天性の能力ではない。
 自分の心を抑え、行動を常に九徳に照らし合わせて検証し、
 訓練を経て身につけるものである。

というのが著者の主張のまとめであり、一見当たり前ながら意識していないと忘れがちのことでもあります。

また著者は、機能集団(軍隊や企業など)のリーダーには、人望の前提として能力が必要だと現実的な主張も述べています。徳だけではリーダーたりえず、実務能力が必要だということです。上に行けば行くほど、能力よりも徳の比率が高まっていくということです。

日本におけるリーダーシップの基盤には朱子学があるという発想をベースにおいた著書であったため、朱子学も勉強してみたくなりました。

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