2008年9月15日月曜日

決定論的思考からの脱却

週間東洋経済 2008年9月6日号 不確実性の経済学入門
最近の日経ビジネスの特集がいまひとつなのに対して、東洋経済はおもしろいですね。
平均値を中心とした正規分布を確率分布の中心においた従来の経済学、金融工学がいかに現実離れしているか、実際の経済現象はべき分布(ロングテールのイメージ)に従い、平均に意味はないという示唆はとても興味深い。

自然科学至上主義の私は決定論的世界観に美的感覚をそそられますが、実際の経済は非合理的で不確実。その不確実性に心理学が融合して、最近行動経済学が大流行ですね。ノーベル経済学賞を受賞したハイエクは、市場機能を重視した自由主義、個人主義を唱え、解析的な決定論を否定したそうです。

厳密な予測はできないとし、断片的な情報、知識をむしろ自由に流通させ、個々人の自由意志によって分散して解決したほうがよい、新しい発想や製品が将来どれほど成功するかは事前にはわからないのだから、個々人の自由な活動を通じて、湯着せぬ新しい発展を醸成する社会のほうが望ましい、という考え方は、なんとなくは理解していたながらも、目からウロコでした。

相対性理論しか知らない頭で量子論をはじめて勉強するようなもので、受け入れがたいですが理解しなければなりません。将来をどこまで科学的に予測するか、そしてどこから決定論的思考を放棄するか、そのバランス感覚を身につけたいものだと強く感じます。

別の記事ですが、押井守監督へのインタビューも面白かったです。
アニメーションの世界の巨匠である押井監督は、すべてを自分で作り上げる宮崎駿監督と違い、部下に任せて自分は監督業に専念するというやり方だそうです。おそらく彼はビジネスマンとしても超一流。いくつか気になる発言を記録しておきます。

・スタッフのみんながやりたいことをやり、それをまとまった映画にするのが監督である自分の仕事。監督が自ら乗り出さないといけない現場は、スタッフが機能していない現場。
・一度任せたら、もうとやかく言わない。「試されている」と感じているスタッフは、自分で考え、なかなかの答えを出してくる。
・優れたアニメーターは、分担を引き受けるだけではなく、演出家として自分の仕事の向こう側まで想像できなければダメ。完成品を見てから全体像に気づくのでは遅すぎる。
・最近の若手アニメーターは可能な限り一人でやりたがる。彼らは仕事の成果ではなく達成感を求めているが、それは間違いだ。結果を出すためにはわずらわしくても協力し合い、他人に任せられることは任せなければならない。
・経済産業省がアニメ産業の育成に力を入れているが、それは不可能。アニメーションのスタッフとは宮大工のようなもので、そういう世界で一流の人は狙って増やせるものではない。韓国ではあらゆる大学にアニメ学科、漫画学科を作ったが、何一つ生まれていない。
・そういう人を生むには優れた人間をいかにサポートするかを考えたほうがよい。一部の優秀な現場に集中的に助成金を投入するべき。

アニメーターが独自の世界観を語るようなインタビューを想定していたのですが、実際はマネジメント論、産業論であり非常に勉強になりました。すべての作品を見てみたいですね。

本号の最後のページには大塚商会を立ち上げた大塚実会長のインタビューが連載されています。

過去に業績不振の際、給与カットを言い渡し幹部から猛反発を受け、折れた経験から、いっそうの対話を重視するようになったという話をしています。「今振り返ってもあのとき給与カットを言い出したことが間違っていたとは思いません」に続く、以下のコメントが響きました。

「しかし、経営者は裁判官ではなく、よい結果を出すのが仕事です。理屈の成否ではなく実利を得る、それが経営者の役割であると考えています」

この号の東洋経済を通読し、「決定論的思考からの脱却」と「理屈の正しさや達成感ではなく、実利の追求」の重要性をあらためて感じました。

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