2008年2月27日水曜日

SRIという投資手法

今日は仕事の話。
私は仕事をする上で、企業という存在が、社会や人間に対して
どのような役割を果たせるのか、よく考えます。

そのため、SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)
という考え方に関心をもっており、以前は実務も担当していました。
SRIにはいろいろな定義があり、一般的には
「投資する際に、財務的側面だけでなく、社会的な影響や、
環境に及ぼす影響も考慮するという考え方」と捉えられていますが、
私は今のところ、次のような定義を勝手にしています。

「ある投資判断を行う際に、見込める収益を時系列で想定するだけでなく、
その投資判断が及ぼす全ての影響まで、時系列で想定する投資手法」

まあ、あまり変わらないですが、システム思考で捉えているということです。

投資というのは、投資家から見れば、お金を企業や団体に入れて
増えたところで回収する、という行為につきるかもしれません。
ですが、投資という行為を一歩下がったところから見れば、投資された組織の
生産する製品や、またそこで働く人に、大きな影響を及ぼすものです。

それだけにとどまらず、投資行為によって、企業や団体の活動を促進することになり、
結果として地球環境や経済環境、ひいては投資家である自分自身にも、
直接的間接的に影響が及びます。

そんな問題意識を持っていたところ、ある方からこんな情報を共有していただきました。

財団法人 年金シニアプラン総合研究機構調べ
”SRI及びPRIに関する調査報告書”
http://www.nensoken.or.jp/tyousakenkyu/pdf/sripri_houkokusyo.pdf

年金基金のSRIへの取り組みに対する調査です。

調査結果から、SRIに関する課題をまとめると以下のとおり。

・年金基金の過半数がSRIを認知しているが、主要な運用方法とはなっていない。
・外部機関からSRI導入の提案を受けたことがある基金は4割以下。
・外部機関から提案を受けた基金でも、その半数は納得度が低い。
・SRIを導入しない理由は、SRIに対する情報が不十分だということ。
etc.

なるほど・・・でも、この結論は本当に的を射ているのかな・・・

私が実務者として、また投資家との対話から何となく感じていた、
SRIの課題仮説を挙げてみます。といっても、私が知っている情報は多少古いですし、
すでにいろんなところで問題提起されていることの焼き直しにすぎないかもしれません。

①評価の判断根拠を企業アンケートで行っていること
 評価の根拠に企業アンケートを使うというのは、投資家にとってはどうしても
 客観性、網羅性に欠けると思います。アンケートの回収率を100%にするのは
 不可能ですから、やはり財務報告(義務化される内部統制報告書を含む)のように
 開示が義務化されているコンテンツを、いかに組み込むかを考える必要があります。

②SRIが金融商品のひとつとして認知されてしまっていること
 SRIは投資先評価手法の一つであって、商品名ではないはず。
 「基金にに組み入れるか組み入れないか」、という判断を促すのはミスリーディング。
 運用機関として、「SRIという評価指標を、どれくらいのウエイトで考慮するか」が
 判断軸であるはず。

③投資家の想像力を喚起できていないこと
 投資家にとってのROIが金額でしか定義されない以上、
 SRIがもたらす、幅広い意味でのROIを、論理的に金額に落とし込むか、
 非金銭的リターンが、金銭的リターンに結びつくシナリオを組み立てる必要があります。
 いずれにせよ、魅力的なストーリーテラーとなって、投資家の想像力をかき立てることに
 注力しなければなりません。

④通常の投資とROIは変わらないのだから、プラスアルファの非財務的リターンのために
SRIを選ぶべきだと説明がなされていること
 実績から見て、一般的な投資手法と比べて、SRIがROIで見劣りすることはありません。
 ただ、財務シミュレーションに加えて、追加でSRIに関する調査を行う必要があり、
 どうしてもコスト増となります。①のようにしてSRI調査・分析を行うことにより、
 「実は財務シミュレーション部分でコストカットできるという効果がある」、など
 運用コストの低減にも配慮する必要があるでしょう。

SRIにとって、認知度や実績も確かに必要です。ただ、それと同じくらい、
もしくはそれ以上に必要なことは、

投資家にとって納得できる「評価指標」を提案し、それを使って、
「投資先の成長シナリオ」を描く

ことだと思います。

投資家は、論理的根拠だけで、つまり左脳的判断だけで意志決定するわけではありません。
すぐれた投資家は直感や情緒、つまり右脳的判断をとても大切にするものです。

投資家の右脳に訴求するには、成長シナリオ、もっと言えば、
「投資家の正義感や、使命感をゆさぶるストーリー」が必要だと思います。
投資家だって人間なのですから。

客観的な判断根拠をもとに、成長のシナリオを描くことができれば
投資家は、それがSRIなのかどうかを意識することなく、投資判断を下すだろうと思います。

そして、たくさんのSRIを受けた投資先企業が社会変革をもたらす→
その企業が経済的にも潤う→投資家に大きな果実をもたらす→
それを成功体験として、投資家がますますSRIを志向する・・・

こんなサイクルがまわればいいですね。
と理想論を述べてしまいましたが、現実にはさまざまな障壁があるでしょう。

投資手法や金融商品が複雑化する中で、SRIという考え方は無意識的に、必然的に、
「当たり前の発想」となっていくでしょう。
2008年は間違いなく「環境」の年になるし、SRIにとっても飛躍の年になるかもしれません。

時代に取り残されないように、
SRIの最新情報の獲得と仮説検証をかね、来月あるSRIのセミナーに申し込みました。
勉強してきます。

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